こんばんは、ドクトルです。
このブログでは、皆様に役立つ歯科の知識をお伝えしています。
要点はマーカーで引いておりますので、その部分を読むだけでも大丈夫です。
さて、今回のテーマは「アナフィラキシーショック」についてです。
本日夕方このようなニュースがありました⏬
誠に残念なことに、BA.5対応型ワクチン接種後にアナフィラキシーショックを起こした女性が死亡するという事件が起きました。
さて、この「アナフィラキシーショック」についてですが、一体どういう病態か皆様ご存知でしょうか?
アナフィラキシーショックとは?
アナフィラキシーショックとは、簡単に言うと「アレルギーが超重症化したもの」とイメージしていただければ良いと思います。
例を出すと、スズメバチに刺されて、泡吹いて倒れる、重度蕎麦粉アレルギーの方で、蕎麦つゆが手に少量かかっただけでも卒倒する、などといったケースです。
症状が即座に出現するので、即時型アレルギー(Ⅰ型)とも言われます。
代表的な症状は以下のようなものが挙げられます。
アナフィラキシーショック症状①:血圧低下
名前に「ショック」が付いている通り、血圧は一気に低下します。
その為、意識も朦朧とすることが多いです。
また血圧低下に伴い、全身に血液を送り出そうと心臓が頑張るので頻脈になります。
アナフィラキシーショック症状②:皮膚症状(蕁麻疹、かゆみ、紅斑など)
2点目は、皮膚症状です。
蕁麻疹、それによるかゆみ、また全身的に赤くなります。
アレルギーでよく見る症状ですね。
アナフィラキシーショック症状③:呼吸困難
そして正に致命傷と言える症状3点目、呼吸困難です。
喉のことを、医学的専門用語で「咽頭」と言いますが、この部位に浮腫(むくみ)が生じるため気道閉塞を起こし、呼吸がしづらくなります。
この時の呼吸状態は「ゼーゼー、ヒューヒュー」と言った喘鳴様になります。
以上の3症状が出たらアナフィラキシーを直ぐに疑いましょう。
では続いて、今回の事件についての詳細を見ていきましょう。
愛知県愛西市で起きたワクチン接種後死亡事件について
今回の事件について、現時点で明らかになっている事実は以下の通りです。
※事件がマスコミに出てから、まだ間もないので新たな情報が分かり次第更新していきます。
事実①:ワクチン接種5分後に体調が急変
場所は愛知県愛西市内の集団接種会場。接種した方は42歳の女性。
接種後、5分後に体調悪化を訴えたとのこと。
その時の症状は「咳き込み、嘔吐、息苦しさを訴えていた」との様子。
そして、その場で心肺停止し、1時間半後にお亡くなりになったそうです。
事実②:接種したワクチンはBA.5ファイザー社製ワクチン
なお今回接種したワクチンは、ファイザー社製のBA.5。
ワクチン接種については、3回目まで特に副反応は無かったとのこと。
加えて、BA.5対応のワクチンによる死亡例は愛知県において今のところ無かったそうです。
事実③:死亡した女性には基礎疾患があった
お亡くなりになった女性については、基礎疾患を有していたとのことです。
この基礎疾患についての詳細は明示されていませんが(※R4.11.11のニュースにて糖尿病と判明)今回のワクチン接種との因果関係は未だ不明だそうです。
なお、糖尿病については食事制限、服薬によりコントロールは出来ていたとのこと。
事実④:現場にいた医師や看護師が対応してくれなかった
これについては、今回お亡くなりになった女性のご主人が仰っていました。
派遣された看護師は「アナフィラキシーに対応したことがない」と言ってました
「アナフィラキシーに対応したことがありません」と処置にあたった医師が言いました
事実⑤:接種会場にはアドレナリン製剤(エピペン®︎)が置いてあった
アナフィラキシー治療薬として、アドレナリン製剤(エピペン®︎)の筋注があります。
当時の会場には、救命道具として置いてあったとのことですが、何故か使用されなかったそうです。(注:理由につきましては、事実⑦の項目にて詳細を記載しています。)
事実⑥:愛知県医師会 柵木充明会長「アナフィラキシーを考えざるを得ない」
今回の事態に対して、愛知県医師会の柵木充明会長は「予防接種で急変したことを考えると、アナフィラキシーを考えざるを得ない。」と発言しています。
また、愛西市健康推進課 服部芳樹課長によれば「嘔吐物の内容から、肺に異常があると判断。エピペンを打つ間もなく意識がなくなり、即アドレナリンを注射で救命することを真っ先に考えた上での判断です。」とのこと。
よく意味がわかりませんが、アドレナリン筋注より静注を選択した(?)ということなのでしょうか?
この事件については、愛知県医師会は重大な事案と捉え、専門委員会を発足し事態の詳細究明に努める方向とのことです。
事実⑦:その場にいた医師→嘔吐物の内容から異常は肺にありと判断
当時現場にいた医師曰く、「血の混じった泡を吹いていることから、異常は肺にあり、アナフィラキシーではないと判断した。心肺停止時アドレナリンの静注を試みたが、血管が見つからず断念した。」
なお、事故当時の遺族と医師とのやり取りが11月11日(金)のニュースにて公開されていました。参考動画はこちらです⏬(4:55から)
遺族側の「アナフィラキシーの疑いがあるのに、なぜエピペンを使わなかったのか?」という問いに対し、地元医師会会長は「血圧、呼吸数測定なしではアナフィラキシーの判断はできない。故に測定なしではエピペンも使えない。」と回答しています。
まとめると
少しでもアナフィラキシーの疑いがあれば、何でアドレナリンでの応急処置をしなかったのか?
血圧、呼吸数の測定を無視して、アドレナリン投与は出来ません。
という、対立構造があるということですね。
日本救急医学会のガイドライン上では、接種後複数症状が出たら迷わずアドレナリンの筋注を勧めています。ご参考までにリンクも添付しておきます⏬
「ワクチン接種会場におけるアナフィラキシー対応簡易チャート(大人用)」
事実⑧:R4.11.11 事件の経緯についての資料がTwitter上で公開される
昨日、事件の経緯についての詳細をまとめた資料がTwitter上で公開されました。
要点をまとめると
①接種前に体調が悪かったが、女性からの事前報告はなかった
②顔面蒼白、呼吸苦の訴えあり
③Spo2の値60% 酸素投与開始
④心肺停止の為、心配蘇生を行った
⑤血管見つからずエピネフリン投与不可。そのまま心肺蘇生継続。
事実⑨:愛知県医師会渡辺理事「アドレナリンを打ったとしても救命できなかった可能性が高い」
11月17日木曜日のYahooニュースより、愛知県医師会渡辺理事の会見から
- 死亡原因は未だ不明
- 体調不良がワクチン接種後であることからアナフィラキシーの疑いは消せない
- もしそうだとするならば「最重症型」のアナフィラキシーショックであると考えられる
- 「最重症型」に対してはアドレナリン投与をしたとしても助からなかっただろう
- 看護師が救護室に運ばず、アドレナリンの筋注を行わなかった体制には問題があった
この会見を聞いた遺族側は怒り心頭です。
「そもそも打ってもないのに、救えなかっただろうなんて何を言ってるんだ」
参考までに一部ですが、当記事のヤフコメを掲載しておきます。
- こういう事態で助からないのであれば、もうワクチンは打ちたくない
- 大規模接種会場にいる医師、看護師は救命処置できない人が多い。所詮バイト。
- 「投与しても恐らく助からなかった」という発言は医療従事者として失格。
- やるべきことをしていないのは論外
- 当日の体調を見て、様子見すべきだったのでは
- 基礎疾患を持っている患者は、かかりつけ医に打ってもらった方が良いかも
医療従事者に対して厳しい意見が多い中、基礎疾患があり、体調不良があったにも関わらずワクチン接種した女性に対して疑問視されている意見も散見されました。
事実⑩:開示資料はほぼ黒塗り
情報公開を求め、飯岡さんは資料請求の開示を求めました。
しかし、その中身はほぼ黒塗り。ますます不信感を募らせる結果となりました。
愛知県愛西市の事件について思うこと
この事件について思うことは一つです。
『命を守る使命にある立場が言い訳するな』
どれだけテンパる状況にせよ、必死で救うでしょ普通は。
対応したことあるとか、ないとか超緊急の場において、関係なくないですか?
救急車来るまで、心肺蘇生とか出来ることあったんじゃないんでしょうかね….
注)昨日の資料にて、医師側は心肺蘇生を行っていた記述がありました。
訂正させていただきます。申し訳ございません。
今回の事件について思ったのは
- ガイドラインの把握不足があった?
- アナフィラキシーに対応せず、本当に見殺しにしたのか?
ガイドラインの把握不足があったのか?
前述した通り、『接種後の体調不良に対しては、ためらわずにアドレナリンを筋注する』との記載があります。
この記載と、医師側の「アドレナリン静注が出来なかったので投与しなかった」という発言を比較すると、医師側にも多少の落ち度があったのだろうか、と思いました。
要は、静注の可否が問題でなく、筋注しなかったことが問題なのではないでしょうか?
本当に見殺しにしたのか?
本記事は11月10日にあげたものでして、この時点では「医師、看護師がアナフィラキシーに対応せず、見殺しにした。」「対応したことないので分かりません。」などの供述が全面的に放映されてました。
しかし、前述した資料の記載を見るに心肺蘇生をしており、何とか応急処置を施していたことが分かります。
これは憶測ですが、遺族側からすれば「アドレナリンの筋注を行わなかった」ことへの怒りが大きく、そのことが「見殺しにした」と捉えられているのかもしれません。
なお、こちらの「エピペンの使い方」によれば
- 繰り返しの嘔吐
- 持続性の腹痛
- 喉や胸の締め付け
- 持続する強い咳き込み
- 声が掠れる
- 呼吸困難
- 犬が吠えるような咳
- 唇や爪が青白い
- 意識朦朧
- 失禁
- 脈が触れない
などの症状が一つでも出たら、早期に使えと記載しています。
注射の打ち方はこんなイメージ⏬
こうして見ますと、今回の事件はアドレナリンの静注の可否よりも、筋注しなかったことが最大の争点になりそうですね。
まとめ〜自分だったら何だかんだ必死こいて対処する
偉そうに書き綴ってしまいましたが、「アナフィラキシー」については、私も未だ遭遇はしたことありません。従って自分も対応したことはありません。
ですが、同じ場面に遭遇したら、自分だったら無我夢中でパニクリながらも必死こいて何とかしてたんじゃないかと思います。
それに最低限の対応法は国試で勉強してました。
何なら、いつか遭遇する機会があるからこれだけでも絶対覚えとけ、とまで言われてました。
ちなみに歯科現場でのアナフィラキシー事例として、局麻によるものが少数報告されています。
もしご心配であれば、アレルギー検査の受診をお勧めします。
色々と情報が錯綜していますが、救命する立場にある医師が「対応したことないので」を理由に適切な処置(アドレナリンの筋注)をしなかったのは、職務怠慢と言われても仕方ないのではと思います。
この事件を機に、アナフィラキシーショックの対応法をもう一度頭に叩き込んでおきましょう。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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